大きく開かれた窓に、磨き込まれた木目の床。
ゆったりくつろげる空間で供されるのは、
香り高いコーヒーに上質なフードメニュー、
絵画や歌などさまざまなアートまで。
大人が心潤す空間が、銀座通りに健在だ。

使い込んだ鉄器で沸かしたお湯で、ミル挽きハンドドリップのコーヒーを淹れる。
至福なひと時を
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友人が焼く手作りケーキは、コーヒーとセットで900円。大人のモンブランは上品な味わい
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銀座通りに面した入り口。階段を上り、ドアを開ければ日常の喧騒はすっと彼方へ
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具がたっぷり入った、昔ながらのナポリタン。甘めのケチャップ味が何とも懐かしい
店長からの一言

原嶋卓美さん
非常にゆったりできる場所となっております。お出しするものには自信を持っています。どうか、思い思いに過ごしていただければと思います。画廊もいろいろな方に活用してほしいです。皆さまのお越しをお待ちしております。
基本情報
店名 | 画廊喫茶 レ・トロワ・アヌー |
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住所 | 福生市本町127 |
電話 | 042-553-6417 |
営業時間 |
11:00~22:00 |
定休日 | 火曜 |
駐車場 | なし |
カード使用 | 不可 |
URL |
ストーリー
コーヒー片手に、思い思いの時間を

生野菜がたっぷり取れる「サラダパン」。自家製ドレッシングはやみつきの味
木目を基調とした店内に、長方形の木製テーブルがゆったりと配される。これぞ、<ザ・喫茶店>という空間だ。椅子に座れば窓から空を見渡すこともでき、心を癒す、贅沢なひとときを過ごすことができる。ざわつきや喧騒とは一切無縁な、大人のための特別な居場所となっている。店主の原嶋さんが言う。
「今年の2月で25周年を迎えますが、そもそも始めるにあたり、若い人主体の店ではなく、大人の方がゆったりとくつろげる空間にしたかったんです」
丁寧にドリップされたコーヒーは銅のひしゃくで温められ、センスのいい器に注がれる。なんとも香り高く、味わい深いコーヒーだ。これは事実、特別なコーヒーなのだ。日本で唯一、エイジングコーヒーを製造している「コクテール堂」の山梨工場から焙煎した豆を仕入れ、注文を受けてから豆を挽き、ネルドリップでゆっくり淹れるというものだ。「コクテール堂」のエイジングコーヒーが飲める店は全国で数えるほど、それが何気なく、地元にある。大きな声で宣伝もせず。知ってびっくりとは、このことだ。
フードメニューもなかなかに魅力的だ。創業時からある「サラダパン」は、思いつきから生まれたという。
「『サラダとパンを一緒にしたらいいんじゃない?』ってできて、25年間ずっとそのまま。当時、生ハムなんてこの辺で売っていなくて、国立の紀伊國屋まで行って仕入れていたの」
生ハムが乗ったてんこもりのフレッシュ野菜の奥に、トーストした厚切り食パンが小さく切られて隠れていた。醤油ベースの自家製ドレッシングが、やみつき系の抜群のうまさで、このドッレッシングが見事なアクセントとなって、生野菜とパンと生ハムという、それぞれの個性を見事に絡み合わせる。ボリュームも抜群で、ランチにも夜に提供されるお酒のつまみにもぴったりだ。
「創業から変わらないメニューが多いですね。ドレッシングもそう。『アヌーパン』はソーセージで、パンとサラダを楽しむもの。パスタも各種ありますが、うちのナポリタンは美味しいですよ。若い頃から食べていた、昔ながらのナポリタン。店で出すものには、自信があります。」
夜には、ソーセージやチーズでお酒が楽しめる場所になる。女性一人でお酒片手にゆったりくつろげる店って滅多にないのに、アヌーなら軽く飲みながらクールダウンするにはぴったり。それぞれが思い思いに自分使いできる、大人のための上質な空間がここにある。
アートと身近に触れ合える、貴重な場として

24年間続いている、ピアノの生演奏。毎週、木曜と金曜の夜は弾き語りを楽しみながら、食事とお酒を楽しむことができる(演奏者:髙橋一郎)
扉を入って左手に広がるのが、ギャラリースペースだ。画廊として絵画や写真展などを開催したり、時にコンサート会場にもなるスペースだ。創業以来、ここでどれほどの芸術家が作品を披露してきたことか。
「店を開いてほどなく、芸術家のつながりの中で音楽をやったり、作品展をしたり、読み聞かせなど、このスペースでいろいろな催しを開いてきました。わざわざ都内まで行かなくても、身近なところで芸術に触れられるのはいいことだなあと思っています」
とくに人気な催しが、あきる野市在住の70代の女性、浦野典子さんによる朗読会だ。1年に1〜2回開催して今年で8年目。毎回、定員の50名があっという間に埋まる。
「2010年、京都市主催の<古典の日記念 朗読コンテスト>で、一番美しい声だとして特別賞をいただいた方です。そのニュースが地元紙に載っていて、ぜひ、聞きたいとすぐに連絡を取り、それからのご縁で続いています。浦野さんのファン、いっぱいいるんですよ」
金子みすずの詩を朗読した会では、金子みすずが大好きだという小学5年生の男の子も参加した。
「まさか、そんな男の子がいるなんてびっくりでした。新鮮な発見でした。イベントのたびに、素晴らしい出会いがあるんです。新たな発見もありますし、楽しいですね。そもそも老後を楽しくしようと始めた店ですから」
イベント開催は2ヶ月に1回ほど。創業以来、木・金曜の夜はピアノの生演奏を行い、毎月第二木曜は今や、歌声喫茶だ。
階段を登り、アヌーの扉を開けるだけで、誰でも文化と芸術のシャワーを全身に浴びることができる。大人が集う贅沢な空間に今宵、何を見つけに出かけようか。
「三匹の羊」が夢見るものは
3人姉妹が、老後を楽しくしたいと奮起して

こだわりの器に銅の柄杓で供される、自慢のコーヒー
原嶋さんは長く、衆議院議員の秘書として活躍してきた。赤坂や虎ノ門を仕事場としてきたが、地元・福生のかつての青年団仲間から声がかかる。「いつまでも都内にいないで、そろそろ、福生に戻って何かやれよ。みんなで応援するから」
3姉妹でいろいろ考え、コーヒー屋をやることに決めた。三姉妹が思ったのは、「とにかく、老後を楽しくしたい」。長女である原嶋さんは、55歳の決断だった。とはいえ、もともとコーヒーが嫌いな原嶋さん。唯一飲めたコーヒーが、虎ノ門に本店がある「コクテール堂」のコーヒーだった。そこで店長に相談して、店を実質的に担う三女と2人で3ヶ月間、土日はコクテール堂に通い、ドリップの練習を重ねた。店で使う豆は当然、コクテール堂のものだ。この豆が特別だった。世界中から厳選したコーヒー豆を、山梨の工場で数十ヶ月もエイジング(熟成・乾燥)させたという、日本でここだけの豆だ。
目指したのは、大人がくつろげる大人の店。応援してくれる人たちの要望で、夜はお酒も出すことにした。
さあ、店名をどうしよう。原嶋さんの中に浮かんだのが父だった。
「三姉妹でやるのだから、父の思い出を名前にしたいと思ったんです。当時既に亡くなっていた父といえば、羊。学校の先生だった父は、子守唄代わりにオルガンを弾いて、いつも羊の歌を歌ってくれたんです。羊だ。三匹の羊にしようと……」
英語だと、すぐに羊だと分かってしまう。「じゃあ、なんだかよくわからないように、フランス語でかっこよく行こう」と妹二人も大賛成して決まった店名だった。
こだわったのは、落ち着ける空間作り

すべて特注だというテーブルと椅子。風合いのある木目を生かした空間が心地よい。テーブルはゆったりと配されているので、落ち着いて、思い思いに過ごすことができる。今や、福生に貴重な喫茶空間
扉を開けた瞬間に感じる、ひそやかさ。それはまるで隠れ家のよう。木製の椅子やテーブルは特注品だという。だからなのか、あたたかみが違う。
「大人が落ち着ける、かっこいいお店にしたかった。何より、女性が一人でもゆったりできる店にしたくて……」
創業時は、秘書学や接客法を大学で教えていた原嶋さん。そのため三姉妹が手分けして店を切り盛りしていた。
店には、25年という時間の重みがちゃんと堆積している。スポットライトを浴びた芸術家は、三桁に上るだろう。さまざまな芸術家を囲み、どれだけ多くの人間がここで交流を重ねてきたことか。
「ここに来れば、いつも何かやっている」と常連さん。幅広い芸術作品に触れることができるギャラリーは、非常に貴重な空間だ。
「いろいろな方に、もっと画廊を活用してほしいんです。値段はご相談に応じますし、学生さんならお安くします。チケット代はできるだけリーズナブルにして、お客さんの負担にならないようにと考えています。最近では、沖縄の三線のライブ演奏をやりました。次は日本画展を予定しています」
まさに、ここは福生に無くてはならないサロン。さまざまなアートに触れながら、仲間同士、楽しく酒を酌み交わす、アヌーの夜。芸術や仲間との「ささやかな出会いの場」として、今宵もアヌーの灯は銀座通りに輝くのだ。